中山マコトコピーライティング起業術
■”横揺れしないこだわり”
もう、随分前の話です。
僕は自分が商品開発に関わったある商品を、
当時僕が在籍していた会社でも販売したいと考えました。
商品には圧倒的な自信があり、また自らが手がけた商品を自らが販売代理店になり手がける事で、
知らない世界が見えてくるかもしれない。
そう言う期待もありました。
もちろん販売した結果入ってくる手数料も魅力です。
その商品は、蒟蒻(こんにゃく)から抽出したグルコマンナンを使ったスポンジ。
純度が高く、アトピーの子供達が使っても痛くないし、痒くない。
大学のチームによるテストでも一切の問題は出ず、
実際に使ってくれたアトピー児のママ達からも絶賛をいただいていた商品でした。
で、ある日。
僕はその商品を、”有名メーカーにOEMできたら良いな!”と考えました。
要は、この商品を某メーカーの商品として納品し、
そのメーカーの販売チャネルを通じて販売して貰いたい!と考えたんですね。
僕はさっそく行動を起こしました。
そして僕の後輩が部長を務めるある日用雑貨メーカーに乗り込んだんです。
その企業は当時日の出の勢いの会社でした。
規模は資生堂、花王、ライオン、P&Gなどには劣りますが、
独特の流通制圧力と売り場での戦い方に特徴が有り、
そうですね、生理用品では特に際立った強さを持っている会社でした。
僕は開発メーカーの部長を伴い、勇躍その企業、
仮にC社としましょうか、に乗り込みました。
会ってくれた相手は、マーケティング本部長。
でも、まだ30代の前半、若くしてここまで来ているのですから、
かなりのやり手のハズです。
予めアポイントを取ってあるので、和(なご)やかに時間は過ぎます。
こちらに対する態度も実に紳士的で、商品の取り扱い可能性もかなり高いぞ!
そう感じさせる対応でした。
で、僕はおもむろに商品の説明を始めました。
現物を手にとって貰い、丁寧に、きめ細かく解説をしました。
販売を承諾してくれた場合の、販売条件も破格のものを提示しました。
普通なら、間違いなく飛びつくだけの条件です。
ユーザーからの評価データも包み隠さず、すべて見せ、
まったく文句のつけようのないプレゼンが出来たと思います。
C社の部長も高く評価してくれたようで、素晴らしい!と何度も口にしています。
「これはイケるぞ!」と心の中でほくそ笑んだものでした。
で、ひとしきり説明を終えたとき、相手の部長がこう切り出しました。
「いや~、本当に素晴らしい商品ですね!」
本気でその商品の事を褒めてくれています。
で、次に彼の口から出た言葉に、
僕と、僕と同行した部長の心は信じられないショックを受けます。
その言葉はこうでした。
「良い商品だからこそ、これはウチでは扱えませんね。」
続けます。
「理由は簡単。
本当に世の中が必要としている商品なら、当社の誰かが開発をするからです。
本当に世の中が待っているなら、当社の誰かが目をつけるからです。
私は当社の開発力を信頼していますし、それがまだ無いと言うことは、
まだ当社が扱うタイミングでは無いと言うことです。」
続けて彼はいいます。
「ひょっとすると、すでにもうウチの誰かが、
コレの対抗商品を作り始めているかもしれませんよ。」
そう言って彼は笑いました。
完敗でした。
ブレない会社ってこういう事なんだな。
まさにその秘訣を突きつけられた気がしました。
自らの会社のチカラを、風土を、発想を、時代を捉えるチカラを・・・・
ここまで強烈に信じることが出来るチカラ。
他社からの持ち込みに、心を微動だにさせず、
「本当に必要な商品なら、当社の誰かが必ず作るはずです!」
と言い切る自信。
しかも30才そこそこの若きマーケティング部長がそれを言ってのける。
スゴイと思いました。
商談自体は失敗でしたが、僕の心の裡には、
実に爽やかで心地よい風が吹いていました。
僕は一匹狼的な体質で、チームやグループで仕事をするのが苦手です。
間違いなく向いていないと思っています。
ですが、このエピソードにより、
”身内を信じること”
と、
”横揺れしないこだわり”
のチカラを目の当たりにしました。
こうあればチームは強い!
それを実感しました。
事実、そのC社は今も素晴らしい商品を連発していますし、
日用雑貨業界の風雲児企業として、超大手を脅かす存在で居続けています。
目先の利益、自分の手柄。
そんなモノに目がくらんで、主義を、主張を、信念を、
すぐに曲げてしまう会社や店や人が多い中、
このC社の生き方は1つのバイブルになるのでは無いか?と思います。