■【大晦日こそがふれあいの日:ヨコハマ山手パンダ。】

はるか昔、僕がまだ20代の前半だった頃。

ヨコハマは山手の高台に、パンダと言うスナックがありました。

夫婦で経営する何の変哲も無いスナック。

ここのママが握るおにぎりが好きで、
当時付き合っていた彼女と週に2回は通ったモノです。

で、この店、ご夫婦の人柄もあって、若いお客さんがかなり多かった。

ママが毎日変える手作りの料理を楽しみに来るお客さんも、とっても多い。

スナックだからもちろんお酒がメインなんだけど、
でも料理を楽しむ人も実に多い。

そんな店。

懐かしいジュークボックスなんかもあったな~。

ある年の瀬の週末。

僕と彼女がお酒を飲んでいると、ある男性客とマスターが話をしています。

「出身はどちらなんですか?」

とマスター。

「福井なんですよ。でも年末も忙しくてとても里帰りが出来ません!」

と彼。

「今年は、大晦日まで仕事なんですよ・・・」

と彼は寂しそうに語っていました。

「それじゃ、おせちも食べられないですね~」とマスタ。

「そうなんです!お袋の作るおせちと雑煮が僕、大好きなんですけど・・・。寂しいです!」

と彼は嘆いています。

それから1時間後。

彼が店を出る時。

マスターが言いました。

「●●さん!(彼の名前です)もし良かったら大晦日、うちに来ませんか?
女房と相談して、大晦日も店を開けることにしました!
お母さんの味とは違うと思うけど、おせちとお雑煮、用意して待ってますよ!
料金は○○円。他は一切いただきません。」

正直、タダ同然の値段です。

マスタは続けます。

「なんならこの店で紅白観てもよい。
一緒に年を越しましょう。
すぐそばの”港の見える丘公園”で初日の出も観られます。
どうせ、店を閉めても自宅でゴロゴロしてるだけなんだから、僕らも同じ。
どうせなら、大好きなお客さん達と一緒にいることにしました。」

そう語るマスターの顔と、その横でニコニコと微笑んでいたママの顔。
僕は今も思い出せます。

当時、ヨコハマのある街でひとり暮らしの僕も、
その年の大晦日は、彼女を誘ってパンダで年を越しました。

公園からの初日の出も観る事が出来ました。

実に幸せな時間でした。

初日の出を拝む彼女の目には一瞬光るものがありました。
パンダはもうありません。

でもあの夫婦の気持ち、魂を受け継ぐ店は沢山あるはずです。

商売はもちろん大事です。

でも、それ以上に大事な事がある。

あの店は、パンダのご夫婦は、
それを僕達に教えようとしていたのだと思います。